個展会場への道すがら…
昔お世話になった、ケーブルファクトリー(カアペリ)からの懐かしい帰り道。
ギャラリー、フォルムボックス。
初めてここを訪れたときは、相当昔の真冬の夜。以前お話ししたとおり、雪深い闇夜のオープニングパーティでした。様々に着飾ったアーティストや、アートファンが詰め寄せ、忘れられない幻想の世界でした。
当時私は、「海外で、北欧で個展をするとはこういう事なのか。。。」と遥かな夢の世界を思うようでした。
はい、お話ししたとおり、現在、真冬のヘルシンキで個展をしても、そんな幻想的な銀世界のオープニングにはなりません。まあ、展覧会の価値には変わりありませんけど。
ケネッティ。小さなワンルームだけのギャラリーですが、オーナーさんが目利きのベテランで小品映えするヘルシンキらしいギャラリー。
あえてかわいい小品のみ、こんなところで個展させてもらうのも気持ちよさそう。
スキッファー。話題のピザ屋さんなのですが、あくまで、ディナーとして食べに行くようなレストランです。
個性的なピザ、具材が生きてておいしいですが、うーん、どうでしょう。でかいので一枚食べると、私はちょっと単調に感じました。
2種類を二人で分けて、うまいビールでも飲みながら…
というのがよさそう。
このようにお散歩しながら、まいにち個展会場へ向かいます。
在フィンランド日本国大使館特任全権大使、村田隆様。
気さくでお話も大変楽しく、お心遣い細やかな大使。
ご経験された様々なエピソードも非常に面白く、また絶対にご挨拶したいお方です。大使の周りでお勤めの大使館職員の皆様も本当にご親切で、恐縮しきりでした。そして個性的で魅力ある方々でした。
建築家の渡邊大志さんにお引き合わせくださったのも、村田大使。
長い海外活動で常に思うことは、人の縁をいただけることの幸せと、それをつなぎ、交流を発展させて行くことの大切さ。私がいつも尊敬する方々は、必ずそんなご縁をもたらしてくださいます。ご本人が魅力的だと感じた人と人を、引き合わせよう。そこに新しく何かが生まれるかもしれない。
それはご本人の利益とは全く関係のない、無償の行為です。
大げさに聞こえるかもしれませんが、私は心底思います。そのような方々は私たちに未来への可能性を、何の見返りも求めず差し出してくださっているのです。現に私の活動は、そんな尊敬すべき方々によって今の形へと育ってゆきました。
若い時にはわからなかったことですが…見習わねばならない志です。
村田大使、またごちそうになりたいです!! 次は、お話しされていたポルヴォーのむっちゃうまいステーキでも…(何も学んでない私)
訂正、ご馳走致しますんで、ぜひご一緒させてください!!
展覧会でリピートしてくださる方、と言っても、よほどの知り合いか、近くに職場があるか、など。
なんにしてもそう何度も同じ展覧会など、見にいけるものでもない。
(面倒くさがりの個人的な見解!)
でも今回は驚くようなことが起っています。リピーターの方がものすごく多い。3~5回来てくださる、それもついでの用事があるわけでもなく、私の展覧会のためだけに遠方からお越しくださるのだから、私自身信じられません。
しかし、改めて、こんなありがたいことはあるでしょうか?
日本でも、ノルウェーでは特に、「今回はどれだけ売れた?」と聞かれたりします。その都度私は違和感を覚えます。売れるのは正直うれしいですが、私はプロとして、あえてプロだから絵を売って生活をしたいとは思いません。
この言葉を「何言ってんだ?」と思われる方も多いでしょう。ただ私には確固として、創作は私の哲学のようなものであり、ごく個人的な事柄の追及の道であり、切り売りするための存在ではありません。他者にとって何の価値もない存在であっても、私にとってかけがえない心のかけらになるのであれば、それはとてつもなく貴重なことと言えるのです。
創作は至高の独りよがり。「売れること」はアーティストの成功ではありません。あまりに売れなかったら恥ずかしいかもしれませんが、実際、売れてもその喜びは創作の充実とは無縁のものです。
高額の対価を支払ってくださる方の心には、深く感謝し決して忘れません。しかし金額の量が芸術家としての喜びの大きさと同じであるはずがありません。
で、また私は言われてしまいます。
「ほな、あんさん道楽でっか?
結構なご身分でよろしいでんなあ~!」
で、私は答えます。
庶民の皆様に、心より同情申し上げながら。
「ごめん。」
(学生時代のノビノビジャージ着てても、心はフィンレーソンだす!!)
あと、同様に、作品に共感してもらえることはうれしいですが、共感を目標にするのも間違いです。
本人の創作の一番深い部分は、同じ人間として、誰かとの共感を結果として、生むはずです。
自然に生活していたら、「素敵だ」と言われた、というのと、かっこいいと言われたいがために意識して生活する、という事の違いと似ていませんか。アーティストと呼ばれる人種が珍奇なルックスなのは、圧倒的に後者が多いからではないでしょうか?
どちらのタイプの作家も世の中には存在しますが、私が惹かれてやまないような作家は断然前者です。今回展覧会で見た、アヌ・トゥオミネンなんかは典型かと思います。
もちろん、敬愛するタルヤ・ピッカネン・ウォルター先生も超かっこいいし美しいし、そんでもってナチュラルです。
「結果としての共感」
それは造る者にとっては何よりの励ましでしょう。
だからこの展覧会は自分にとって驚くべき経験でした。
こんなにたくさんのヘルシンキのアートファンが次々にリピートしてくださっている。
私はとにかく渾身のデッカイ作品をありったけぶつけて、お世話になったフィンランドの友人、関係者のご尽力に最大限に応えたい、その思いだけでやってきました。
「あ~、報われたんだ~…」じわじわ安堵の後に、喜びが満ちてきます。
リピーターのお客様、その日は王子様を連れて御来場。
かわいい、かっこいい、うつくしい・・・私の認識する母子像とはかなり隔たりがあります…笑
私の絵をコレクションしてくださっている絵画ファンのご夫妻。
ご自宅のリビングには私が10年ほどまえにフィンランドで描いた100号の大作が。お会いでき、光栄です。
あの作品にはひと冬の想い出が詰まっています。
余談ですが、その絵には波にのまれる人々の姿が描かれていました。その発表の矢先、東日本の津波がフィンランドで報じられました。家々が飲み込まれてゆく映像を観て、唖然としたことを思い出します。
地震や津波そのものを想像して描いたわけではなかったのですが、生態系を無視し続けてきた人々が、自然の猛威にさらされている、という漠然としたイメージはありました。
ギャラリーツアーの皆様に、またしても私の軽妙すぎるトークが炸裂。
いやー頑張りましたよ。褒めてやってください。やればできる子なんですよ。知ってましたけど。
でも、冗談抜きに皆さん、ものすごく熱心で、博識。いろんな質問を投げかけたり、感想を述べてくれたりで熱量がすごい!
物静かで穏やかな皆さんのなのに、なに?この熱さ!!
そして質問の水準の高さにも驚きました。打てば、響く、感じ。
「この構成に法則性はあるのか」
「空間の意味は何か?」
ほんとに、楽しい!! ギャラリートークって、楽しいもんだったのか?!
今までまったく知らんかった!!
楽しそう!
そして真剣。
こっちも、もちろん楽しい。
当初の予定をが大幅に1時間ぐらい伸びて、質問攻め。
でも、質問の内容が、私の絵画の内面に触れる深い内容でしたのでこちらも思わず本気。
私の創作スタイルが現在のようになる過程や、コンセプト、材料的な諸問題など。こんな創作の深い部分のお話なんて、日本語でもしたことないです。もともと、アート談義は好きじゃないんで。
ながーくお世話になっているフィニッシュファミリー。
家族一人一人が本当に人間的に魅力的。
ユーモアあってかっこいいお父さん、愛嬌があって母性溢れる優しいお母さん。娘さんたちもこないだまでちっこいお子さんだったのに、今ではすっかり女優さんみたい。
以前日本で、「友だち関係のような親子でいたい」と言ってた家族を見て、正直、気持ちわる~って思ったことがありました。
妙になれなれしい口を利く子供たち。父親に、「なあ、ヒデオ!」とか言ってる。明らかに異常な感じでした。
でも、フィンランドではこのご家族のようにそれが普通ですし、それでいて親がナメられている感じなんて全くなく、愛情にあふれ幸せいっぱいいの、「兄弟・姉妹のような家族」
文化の違いとしか言えないでしょうが、なぜ違和感がないのか私にはわかりません。
今思えばその日本の家族も、外国暮らしの経験をお持ちだったのかもしれません。世間の無理解に苦しまれたことでしょう。え~ごめん。
この夏は、所有の島のコテージで楽しまれるそう。こちらではそう突飛なお話ではありません。なんせ、湖が人口よりはるかに多い国ですから、小島はもっと数多いでしょう。なんて羨ましいファミリー。
「次は夏に来てね!」
ほんまにいくで。釣り竿もって。
職場には「アートシンポジウムに出席」とでも言っておきましょう。
かっこよすぎるやろ。
楽しいカップル。愛想だけじゃなく、本当に絵を見ることを楽しんで、長く長く滞在されてました。彼らがあまりにフレンドリーなので会話も弾みました。
ご主人、4回もリピートしてくださいました。それも毎回1時間くらい鑑賞してくださり、フィンランドを発つときは温かいメールでお言葉まで下さいました。
こちらもまた美しすぎるファミリー。絵の鑑賞の仕方も非常に真剣で、「この作品が表すものは…、そしてこれは!」というように手を広げたり体をひねったり、全身でアートを感じたい、というようなご様子。
ありがとうございます。こんなお客様は初めてです。
「むしろあれはこうでしょう!?」「いや、どうだろう、それではこれがこうなのでは?」
奥様はダンサーでしょうか? 見事な身のこなしで、心に感じたものを表現なさってました。
日本建築界のプリンス、渡邊大志氏と奥様がご来場くださいました。
右がフィンランドブランドのお洋服に身を包んだ渡邊氏。
左が極めてユニクロ的な寝間着と変わらない格好に身を包んだ、私。
数日前に、日本国大使館公邸で村田大使よりご紹介いただき、国賓のようなおもてなしを賜りました。
最も渡邊ご夫妻は公邸でのご会食にもすっかり慣れておられ、「あ、サウナ、こっちっすよ!」てな、ゆとりあるご様子。そして些細な物音にもビクつく緊張しまくりの森井夫妻。
食事後はフィンランド式の「男グループ、女グループ」に時間を分けてサウナ。
この「サウナ交流」はフィンランドではものすごく大事。
今まで、見ず知らずのフィンランド人と打ち解けたきっかけは、何よりこのサウナ! 彼らは外国人のお客に気を使ってくれますが、絶対フィンランド式の入り方、つまり、夫婦単位で入るのではなく、おっさん軍団と、アマゾネス軍団(ご婦人)とに時間で分けて、入るべし!!
お互い隠すモンなしにロウリュ(蒸気)を楽しむ。かっこつけてもお前もワシもすっ裸やないけ!という腹を割った関係が生まれます。
意地や、わだかまりなんて、すっぽんぽんでこだわる気になんてなれません。
きっと世界中の為政者が、フィンランド式サウナに入れば、戦争はなくなるでしょう!
(実際は、「サウナ外交」という言葉もあり、密談にも最適なんだそうですが…)
その日、渡邊氏とは、日頃、日本では絶対話さない、私にとってのアートの問題ごとを語りました。建築は好きだし、建築家を尊敬します。今までも、建築家の友人とは何でも「建設的な話が」楽しくできた気がします。
こんなことを言っても勘違いしてるだけだと思われるのが落ちなのですが、北欧で活動するようになってから、日本でアートを語ることがすっかり嫌になってしまっていました。全く視野が違って、誰ともお話にならない。言っても通じないから、自分の言葉は封印する代わり、他人の言葉もお断り。
ほら、「勘違い野郎め」って思ったでしょう? たぶん、それが自然。
だから、正直。美術の話なんてうんざりなんです。
でもこの日は違いました!
「なんでこんなことが今までわかってもらえなかったんだろう!」
芯にスコーン!!と響くようでした。
私が常日頃思っていることを、渡邊氏はスラスラと淀みなく返してくれます。日本でアートを話して感じる違和感は、そこ!そこなんだ!
一時間くらいはサウナと巨大プールに入っていたでしょうか?私は本当にうれしくてうれしくて。
渡邊さん、また早稲田大学に遊びに行きますんで、追い返さないでください。
私のファミリーの長女さんは大の犬好き。今ではすっかりやさしいお姉さま。
会場でたまたま一緒になった渡邊氏を見て「あら~!」って顔をするので、え!ひょっとして知り合いだったの?
そうではなく、渡邊氏の抱いている愛犬が目に入ってとろけてしまった、という次第。それにしてもおとなしいぬいぐるみのようなかわいい愛犬様。この後飲みに行った店でも、愛犬と一緒。いいこですなあ。
リピーターご家族様。この皆さんも3回も来てくださいました!ほんとに生き生きアートを楽しんでおられることがわかります。
素敵なお方です!ギャラリーそばの革とシルバーアクセサリーのお店、
design Laakso & Sandman のマリイアさん。
繰り返し、素晴らしい方です。
「これこそ、私がみたかったもの、そのものだわ!!」
そんな素敵すぎる言葉、出来すぎですが、フィンランド人やノルウェー人のホントにアートが好きな方は、おべんちゃらは言いません。本気で好きならそう言うし、嫌いなら余計なことは言わずに去ってゆきます。
今回、この方だけではないのです。目が圧倒されて震えていて、本当に心動かされているのがわかるのです。
そして何度も私の心を熱くしたのは「必ず、この国に戻ってきてください。」という言葉です。
はい、行きます、釣り竿もって。
職場には「アートカンファレンス出席」としておきましょう。
※冗談の通じる職場であることを祈ります。
この日も私のフリゥ~エント過ぎるフィンランド語で気合を入れてお客様にご挨拶。
「ようこそおこしやす、おいら日本人芸術家のもりいひろはるでやんす」
すると、
「ソウデスカ」
と日本語のご返事。あらま、と思っていると
「チョットダケ、リュウガクシテイマシタ。」
京都の大学で語学を学んで、現在はミュージアムで働いておられるそう。宣伝を見て、日本人アーティストと知り、来てくださいました。
ありがとうございました!!
こちらの親子もリピーター様!本日で3回目。
「次は娘連れて来るから!」って、本当に連れてきてくださいました。
それでもって、なんとも幸せそうな笑顔。
もう、私涙腺がゆるゆる。
こちらのカップルさまは4回目!! この上なく嬉しいです。
服装を変えたり、家族を誘ったりして、毎回一時間ほど、ゆっくり鑑賞してゆかれます。
ひたすら絵を眺め、いろいろと二人で語り合い、そして、ふっと見つめあって、笑顔に。
フィンランドの方々らしく、少しシャイな感じなのですが、その時の笑顔は「にっこり」とかいう感じではありませんでした。
なんだか「心からこみ上げてきたの、わかるよね?」と呼吸もぴったりのお二人。はたで見ていてドキッとしました。
この頃はすでに会期の後半、私の奥方は日本に帰国してしまってましたので、ちょっとばかり寂しく、うらやましくもありました。
だって母ちゃんいねえとなんもできねえんだもん。